リーディングフォーラム2016 参加報告

久松 明史(1期生,工学研究科)

松岡 祐也(3期生,文学研究科)

ジョン イジョウ(1期生,工学研究科)

藤田 遼(1期生,理学研究科)

大柳 良介(1期生,環境科学研究科)

富田 史章(2期生,理学研究科)

谷島 諒丞(2期生,工学研究科)

今野 大輔(1期生,工学研究科)

 

  1. はじめに
  • 本報告書は,2016年11月11日から12日にヒルトン東京お台場で開催された,リーディングフォーラム2016(http://forum2016.plgs.keio.ac.jp/)で筆者らの記憶に強く残った有益な事を他の受講生に共有するために作成されたものである.
  • 第2章でフォーラムの概要を説明し,第3章で得た情報を共有する.第6章では,他大学のリーディングプログラムとの交流ツールについて紹介している.第4章でその後の活動を報告し,第5章にまとめを記す.
  • 本学リーディングプログラム受講生の人生設計において参考になれば幸いである.

 

  1. フォーラム概要

     2.1. 背景

  • 博士課程教育リーディングプログラムは,広く産学官にわたりグローバルに活躍する高度博士人材の育成と排出を目指す大学院改革プログラムである.文部科学省が2011年度に採択を開始し,全国30大学62プログラムが実施されている.

 

     2.2. 目的

  • 本プログラムの学生が修了したあとの出口イメージについて,産プログラム関係の教職員・学生,産業界・研究機関・行政機関・国際機関・アカデミアのゲストらと議論する.

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     2.3. タイムテーブル

時間 内容
11日 10:00~10:30 オープニング
10:30~10:40 文部科学省挨拶
10:40~11:10 招聘講演1
11:10~11:40 招聘講演2
13:10~13:40 プログラムの説明
13:40~15:20 産学ラウンドテーブル
15:35~17:15 学生ラウンドテーブル
17:15~17:25 クロージング
17:40~19:40 意見交換会
12日 9:30~11:00 学生討論会
11:30~13:00 分科会①~⑥

 

     2.4. 登壇者・パネラー一覧

内容 登壇者 所属
招聘講演1 朝田照男 丸紅株式会社 会長
招聘講演2 橘フクシマ咲江 G&S Global Advisors Inc. 代表取締役社長
産学ラウンド

テーブル

鈴木寛 文部科学省大臣補佐官,東京大学教授,慶應義塾大学 教授
ほか
分科会① 西野嘉之 株メディネットグローバル 代表取締役CEO,産業能率大学 客員教授
樋口美雄 慶應義塾大学商学部 教授
ほか
分科会② 劉磊 株日本総合研究所 ​スペシャリスト(システム工学)
ほか
分科会④ 友澤孝規 経済産業省 資源エネルギー庁 長官官房 総合政策課 戦略企画室 室長補佐
遠藤正紀 文部科学省 研究開発局 研究開発戦略官(核融合・原子力国際協力担当)付 戦略官補佐
星野美保子 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門 鉱物資源研究グループ 主任研究員
増永英治 茨城大学 広域水圏環境科学教育研究センター 助教
分科会⑤ 大久保豪 株式会社BMS横浜代表取締役
涌井智子 独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所研究員
金山智子 情報科学芸術大学院大学教授,産業文化研究センター長

 

 

 

  1. 参加者からの情報共有

     3.1. 招聘講演1

  • 今社会で認められる人材の能力:
    • ブレない判断力
    • 勇気ある決断力
    • スピード感をもった行動力

(ジョン)

 

     3.2. 招聘講演2

  • 人間は様々な身分を持っているので,自分にとっても多様性が形成する.例えば,留学生は​少なくとも外国籍を持っている人財と考えてほしい(ジョン)

 

     3.3. 産学ラウンドテーブル

     3.3.1. 趣旨

  • リーディング大学院が育成を目指すT型博士人材の資質を引き出せる新しい職場として産業界にはどのようなものが考えられるか,現場のニーズはどうか,期待される役割は何か,大学での教育と企業での育成の役割分担はどう考えるべきか等の多様な課題に対し,産学双方からスピーカーを集め,本プログラムあり方や来春以降修了生が活躍できる場を議論する.(谷島)

 

     3.3.2. 内容

  • 国際機関,グローバル企業,国際コンソーシアムでは,博士号が必須で,持っていなければ相手にされない.これからは,単に研究ができるだけでなく,リーディングプログラムが目指すような専門知識だけでなく,幅広い知識を持ち,新しい価値を創造できる人材が必要である.(谷島)
  • これからの時代,一生同じ部署,同じ研究を続けることはありえない.どれだけT型人財の横棒を伸ばせるかが,生き残る上で大切になってくる.(谷島)
  • 一部の企業の上層部は,複雑化する社会に今までの人財では対応できないことに既に気付き始めているが,それが全体に浸透しているわけではないので,人や企業によって認識にギャップがあるのが現状である.(谷島)
  • 普通,ある国の国際機関の職員数はその国の拠出金の額に比例する.しかし,日本は,国際機関への拠出金はアメリカに次いで2番目であるにもかかわらず,国際機関で働く人は少ない.これは,日本人が抱える発信力やコミュニケーション能力の弱さ(言葉の問題だけでなく,相手とつながることができるか,自分との違いを受け入れる柔軟性があるか)が原因である.専門知識だけでは意味がなく,それを他につなげられるか,「つなげることが大切だ」という意識を持っているかが重要である.(谷島)
  • 社会が複雑になり,明日を予測することが困難になってきており,見えない中でどうリードしていくかがポイントになってきている.自分が見ているものや持っている知識以外のものに気づけるか,「気付いていない自分」に気づけるかが大切である.(谷島)
  • 産業界は,5年先,10年先は読めるが,30年先は考えていない.先が見えない今の時代,短期は産業界,長期は大学が考えるというように切り分けができると良い.(谷島)
  • 鈴木氏の話では,何事も最初が難しく,全国でリーディングプログラムが始まったときも同じだった.しかし現在,グローバル化が進んでいるので,博士学位を持ってないと,国際社会で活躍することは難しい.(ジョン)

 

     3.4. 学生ラウンドテーブル

  • 今全国の62個のリーディングプログラムでたくさんの博士人材を育成したが,企業として,どのように育てた人材(我々)を全員消化するのかは非常に課題になっていると思う.(ジョン)

 

     3.5. 意見交換会

     3.5.1. 趣旨

  • 来春以降に産業界等に就職を希望する学生たちが,経営層や人事担当の方々に,ポスターボード等を使って自己アピールし,意見交換を行う.(谷島)

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     3.5.2. 内容・感想

  • プログラムごとに1枚のポスター(だいたいA0)を用意し,企業の方が来たら,プログラムの内容の説明と各自の研究やプログラムでの活動内容等の自己アピールを行った.G-Safetyからは,学生4名,教員1名が参加した.ポスターは,4分の1をプログラムの内容,残りを4分割し,各学生の自己アピールスペースとした.また,各自名刺を用意した.当日は,7~8社の企業担当者が訪れた.(谷島)
  • 私は5社の企業担当者に説明をし,名刺交換をした.自分の専門分野と企業の事業内容のつながりや必要としている人財について意見交換をした.自分の専門分野的に機械系のメーカーの方に興味を持たれると予想していたが,それ以外の専門分野とはかけ離れた企業の方も,事前に配られた資料で自分に興味を持ち,話を聞きに来てくださった.分野にもよるのかもしれないが,個人的には,自分が予想していない場所にもニーズがあり,自分の決心次第で道は数多くあると感じた.進路は,視野を広げて考えたり,探したりした方が良いと思う.(谷島)
  • 私は4社(東京海上日動リスクコンサルティング,清水建設,三菱総研,新日鉄住金)の企業担当者にポスター説明を行った.企業側は,どのプログラムにどの専門の学生がいるのか,目星をつけてから見に来ているようだった.他にも,企業によっては新卒扱いでの就活を必要とする場合や,キャリア採用扱いになる場合など,博士の採用は企業によって様々であると感じた.(今野)
  • 何社かの大手が我々のポスターを見に来たが,やはり安全学をテーマとするプロジェクトが育成された博士たちに興味を持っていると思う.自分も三菱化学の人から今の社会で,リスクマネージメントが非常に大事だという話を聞いた.(ジョン)

 

     3.6. 学生討論会

  • 他大学のリーディングプログラム受講生の主導で構築されている,

のそれぞれの特徴と運用方法について議論した.(久松)

  • リーディング・プラットは各大学のリーディングプログラム学生の活動記録をニュース記事の形式で記録し,さらに学生の個人プロフィールも掲載する.そのため,学生だけでなく,企業などの外部機関に向けて情報を発信することができ,交流のきっかけとすることができる.いわば,リーディングプログラムを外部に広報する“外向き”のツールである.(久松,富田)
  • 一方,ガリバー・プロジェクトは現在のところFacebookを利用した交流ツールであり,文字通り学生同士の交流(会話・意見交換)が可能であり,参加者のみが閲覧するためざっくばらんな交流が可能である.そのため,こちらは“内向け”のツールであると言える.この企画では,各大学のリーディングプログラム学生の交流を図ることはもちろん,プログラム学生が卒業後にも交流を保ち続け,各分野のリーダーが将来的にコラボレーションできるコミュニティー作りを目的としている.(久松,富田)
  • これらのツールはすべてのリーディングプログラム受講生同士のコミュニケーションに活用されることが期待されるが,ともに参加者が積極的に情報を発信することが求められる.また,既存の交流ツールとの差別化や両ツールの連携について更なる議論が必要である.(久松)
  • リーディングプログラムは,多様な人材を有し,多様な活動を行っている.そして,その活動間を結びつけて新しいコミュニティーを作っていくことや新しい企画を打ち立てることは非常に困難なことである.このような“多様性”をマネジメントする力がリーディングプログラム学生に求められていることが議論された.(富田)
  • リーディング学生を繋ぐネットワークを広げる目的をして議論したが,学生にとって,もっとメリットがあるウェブサイト作ったほうがいいと議論した.例えば,企業と繋がりがあるネットワークを作ると,就活の情報収集に対して意味があるではないかという提案もあった.(ジョン)

 

     3.7. 分科会

     3.7.1. 分科会① 産業界(ビジネス等)

  • 西野氏は,博士学生時代に(教授に内緒で)会社を立ち上げた.発表の中で,自身が開発したユーレット(企業価値検索サービス,http://www.ullet.com/)の紹介があった.「ビジネスで勝つためには,30年後の世界をみないといけない」,「博士人材に求められているのは1→2にすることでなく,0→1にすること」や「博士時代にすべきことは,目の前のやると決めたことをやり通すこと」などの言葉が印象的であった.(久松)
  • 樋口氏は,経済学の教授として,パネラー唯一の文系代表としての意見が求められていた.かつては会社が人を育てていたが,国際企業闘争が激化したことにより,ガバナンスが変化したという.すなわち,株主の存在が重要となるため,利益率の向上が求められ,その結果,費用,特に,人件費の削減に至っているのが現状である.そのため,優秀な能力を持つ博士人材に企業も注目している.優秀な人材を求めるためには,社員の使い方や評価の制度を変える必要がある(例えば,就業年数による職務の決定や給与の評価).ところが,職務(マネージャーとプレーヤーでは必要な能力が異なるため,能力に応じて決める必要がある)や成果による評価制度が確立しておらず,給与の不公平感が生まれているのが現状である.まさに「働き方改革」の最中であり,働き方や企業-個人の関係が変化しているという.(久松)

 

     3.7.2. 分科会② 産業界(研究職)・シンクタンク

  • 劉氏は2009年に東北大学から卒業して,最初にメーカーに入ったが,その後シンクタンクの業界に入った.博士の学生に言われたコメントが,やはり今も社会に入ったら,ストレス管理が非常に重要とのことで,少なくとも周りに親友をつくることをおすすめされた.(ジョン)

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     3.7.3. 分科会 アカデミア・国研・行政体(理工系)

  • 主に理工系の博士課程学生を対象に,省庁,国立研究所や大学等研究機関への出口を探る.博士号取得後に,これらの職場で定職を得た下記の先達4人が,就活,就職後の業務・遣り甲斐等を語る.会場に人事担当者も参加して貰い,質疑応答を展開する.(藤田)
  • まず友澤氏は行政における博士としての印象として,調査・分析能力は期待以上に求められていることを挙げていた.これは,行政の仕事においても,博士課程で身につく能力が十分に生かされ,かつ高い評価を受けている証だと感じた.一方で,博士号を取得しているからといって,最初は行政の仕事に対しても素人である訳であるために,あくまでも経歴ではなく,仕事に対する結果によって上司や仕事相手から信頼を得ていくものであると述べていた.続いて遠藤氏は,自身のこれまでのキャリアパスを通じた印象して,研究も仕事も思考プロセスは同じであり,同様にロジカルシンキングやプレゼンを行うことは常に日常であると述べていた.これは,友澤氏の発言にも通じるものがあり,行政で働いてきた博士号取得者の共通認識として挙げられた.さらに,研究・開発に関する相場観を持っているために,行政の中で働く際にも,新たな知識の取得スピードが他の同僚よりも速い場合があること,研究者や企業相手に仕事を行う際にも相手側とのやり取りや交渉がスムーズに進むことが多いことを語っていた.次に,星野氏は,研究員としてのキャリアを国立研究所で進めていた中で,1年間研究戦略部へ出向した経験を挙げて,仮に研究員であっても,研究以外のキャリアを一旦歩むことで新たな視野を獲得するチャンスとなる可能性を語った.最後に,増永氏は,大学における研究者という,博士号取得直後は雇用形態においてやや不安定でもあるキャリアを通じて,常に応募種類のたたき台を用意しておき,かつそれを更新し続けること,例えば専門が多少異なっていてもそこへ挑戦することはキャリアアップにとっては重要であることを,自身の経験に基づいて語っていた.(藤田)
  • 博士人材は,アカデミア・国研・行政で活躍する上で非常に大切な能力を有していることが多くの講演者から語られた.まず,各機関での業務は研究における思考プロセスと同様に進めることが多く,博士で鍛えられた調査・分析力,問題解決能力は非常に役立つ.また,博士で素養される論文として文章にまとめる能力やプレゼンの能力が活躍することも非常に多い.博士を持っていること自体の恩恵もある.海外のハイクラスはPhD持ちが多く,見劣りされることもなくなる.また,特に行政においては博士卒が少ないため,業務の上での差別化・ブランディングが図ることが期待される.(富田)
  • 友澤氏と遠藤氏は博士課程取得後に行政の道へと進んだ.どちらも共通して,研究で培った論理的に考える力は行政に勤務している間も役に立っているという旨の発言をしていた.また,国家公務員1種を希望するのであれば,博士課程1年から受けると楽なので早めのキャリア設計が大事であるとのアドバイスがあった.国家公務員1種の受験期は研究そっちのけで勉強していた模様.国家公務員の人事によると,博士を取りたいけれどもそもそも受けてくる人が少ないのでドシドシ応募してくれ,だそうです.蛇足であるが,遠藤氏の「末は博士か大臣か,という言葉があります.これは博士と大臣が出世の代表格のようなものであった時代があったからなのですが,今では逆の意味で使われているような気がします.まあ,大臣については立場上大きな声で言えないんですけれども」という発言で会場の笑いを誘っていたのが印象的だった.(大柳)
  • 産総研の星野氏は国研で研究を,筑波大の増永氏は大学で研究をするキャリアを選択し,これまでのキャリアについて語った.両氏とも,学位取得後に,自身の専門分野から離れたことに挑戦することが重要であると述べた.(大柳)

 

     3.7.4. 分科会 アカデミア・国研・行政体(人文・社会系)

  • 分科会⑤は人文・社会科学系の博士人材を対象として,講演者が博士課程の学生時代にどのようなことを学び,それが実際社会に出た際にどう影響を与えたのかを聞き,議論を行う場であった.ただし,講演者は社会科学系の出身で固められており,人文科学系の学生にとってどれだけ有益な内容だったのかを考えると,少し不満が残る点もあった.(松岡)
  • 大久保氏は社会学が専門だが,保健学で学位を取得され,研究機関や大学で研究員や助教として勤められ,現在は起業した会社の代表取締役社長となられている.起業された会社では社会調査などをおこない,自身は現在も研究活動はされているという.次に涌井氏も大久保氏同様,保健学で学位を取得された方であった.社会学の立場から,公衆衛生や介護の問題についての研究をされている.海外の研究機関での研究活動経験があり,その経験が現在どのように生きているのかを聞くことができた.最後に講演された金山氏は,情報学が専門であるが,現在取り組まれていることはむしろ社会学に近いように感じた.その立場から地域コミュニティーに関する実践的な取り組み・プロジェクトを推進されているとのことだった.(松岡)
  • 3者は奇しくも,社会学(ないし,それに近い取り組み)の立場にある方たちであった.分科会が人文・社会系とひとくくりにされてしまったことから,人文系のキャリアパスという点では,残念ながら直接参考になることはなかったと言わざるを得ない.しかし,3者には共通して「視野の広さ」が見られたように感じる.特定の学問領域にこだわらず,自分の研究領域が社会のどの分野に生かせるのかを考え(大久保氏の場合にはみずから起業し),キャリアを歩まれていた.この点については,人文系であっても学ばなければならないところだと感じる.(松岡)

 

  1. フォーラム後の活動
  • フォーラムの意見交換会で名刺交換をした企業の中で,気になる企業にはメールでコンタクトを取り,近日,企業訪問を行いさらなる意見交換や情報収集を行うことが決まった.また,フォーラム関連であることから,出張として企業訪問することが認められた.(今野)

 

  1. おわりに
  • 報告書を締めるにあたり,我々博士人材の重要性を再確認したい.フォーラムの目的はリーディングプログラムの学生が修了したあとの出口イメージについて議論することであったが,このような目的が設定されていることからもわかるように,社会としても我々博士人材の重要性を十分に理解していないといえる.
  • そのような状況であることを認識したうえで,誰かが重要性を説明してくれることや活躍の場を与えてくれることを待つのではなく,我々が主体的に「高度博士人材が活躍する社会」をつくっていくことが必要である.我々にはその資格があり,能力がある.我々は「人類が初めて出会う問題」への取り組み方を知っている.自信と誇りを持って残りの時間を過ごしたいと考える.

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